働きながら学ぶ ― フランスの挑戦
menu

2018-3教育実践教育学会シンポジュウム報告

更新日: 2018/05/02

特集 第20回研究大会 公開シンポジウム
「日本における教育実践研究の動向 -フランスとの比較を通してー」

高等教育無償化への実践研究

フランス社会の階層格差への取り組みは資料から読み取れるか

西之園晴夫
NPO 学習開発研究所


Study on Higher Education Free of Tuition

How can we analyze the French policy of overcoming social disparity from references?

Haruo NISHINOSONO
NPO Institute for Learning Development

要約: Universalization of higher education without any tuition is a worldwide issue after the UN resolution of 1966. France had a low percentage of students proceeding to higher-grade schools in the 1960's, reflecting the disadvantages in the societal levels of the peasantry and factory workers. The new French “apprentissage” system is expected to overcome these discrepancies by integrating theory learning at “Centers for Instructing Trainees” and also practical training in workplaces.
キーワード/社会的格差、高等教育無償化、フランス、修業教


Ⅰ はじめに

教育実践では、そのときどきの経済的社会的文化的背景を色濃く反映するので、どのような課題意識で取り組んでいるかを明確に示す必要がある。とくに海外での教育実践については、民族的、異文化的な文脈を理解したうえで検討する必要がある。フランス国民が教育に言及するとき、革命から200年以上が経過しても、社会に根強く残る階層格差が克服されていないという課題意識がある。したがって、フランスの教育をみるときにも社会の階層格差との関係は重要である。図1に示すのは1965年当時の社会階層別にみた上級学年・学校への進学率を示したものである。

その当時、教育の民主化は世界的にも重要な課題であり、1966年には国連において「経済的社会的及び文化的権利に関する国際規約 (A規約)」が決議され、その第13条2項 (c) において高等教育の無償化が明文化された(i)。筆者は1966-67年にフランス政府技術留学生としてパリ南郊外の技術教育高等師範学校 (Ecole Normal Superieur de l’Enseignement Technique, 現在のEcole Normal Superieur de Cachan) に滞在していたので、その後の教育改革に関心を持っているが、高等教育が普遍化する過程での無償化問題が重要である。

Ⅱ フランス教育の現状

1 高等教育の特徴
フランスも第二次世界大戦後に数多くの教育改革を実施してきているが、2017年度の教育年鑑によると図2に示すようになっている。わが国のように各教育段階において学年の枠組みがあり、それに対応して相当する年齢の児童生徒が在席しているというのではない。フランスにおいては、児童生徒の成長発達が重視されていて、それに応じて所属する校種や学年が決まることになる。したがって図2に示しているように初等教育段階、中等教育段階を経て高等教育段階に達するが、その年齢区分には幅がある。

21世紀に入ってからのフランス教育の特徴は、従来の中等教育後に大学などの高等教育に進学するという考え方から、16-25歳を専門職への養成期間と位置付けて、これを修業教育 (apprentissage) と呼んでいる。その詳細な内容については修業教育契約 (contrat d’apprentissage) として明細に記述されており、雇用主と若者との間で取り交わされる。その詳細については後述する。

フランスの大学では、学生はさまざまな経費を負担するとしても年間数万円であり、授業料は無料である。しかし大学を修了しても職業能力を証明するものではなく、高等教育の系列の一つに過ぎないので、高等教育の普遍化の政策として大学の拡充は重要な問題ではない。この状況は次ページの図3aに示されているように大学への進学率はあまり増加していない。それに対して図3bに示すように修業教育の高等教育レベルの増加は著しい。図3aと図3bとの縦軸の比率の目盛りは対応させているので、高等教育段階での在席者数の増加の状況がうかがえる。若者の在学数としては図2に示したように修業生 (apprenti) の実数はまだ少ないが、21世紀になって高等教育レベルの修業教育コースが大きく伸びている。この教育の基盤となっているのは修業生養成センター CFA (Centre de Formation d’Apprentis) で実施される理論的な学習と企業において実技訓練が行われる。これは現マクロン大統領がオーランド大統領時代に経済担当大臣として推進してきたのであるが、さらに大統領選挙において若者の支持を勝ち得たのもこの修業教育によるところが大きいことが指摘されている。現在、「マクロンによる修業教育 (Apprentissage selon Macron)」としてホームページが設けられている。

2 修業教育 (Apprentissage ) の特徴
Apprentissageという用語は歴史的には中世から存在した徒弟制度を意味するものであったが、現在は多義的になり、実習、研修、学習、見習い、職業訓練、見習い制度などの意味で用いられ、初等教育段階でらの学習の意味でも用いられている。教育年鑑では学生 (edudiant) と区別して修業生 (apprenti) の統計資料が示されているので、その意味でapprentissage を修業教育としapprentiを修業生とした。フランスの修業教育は、わが国の職業教育とは大きく異なり雇用主と修業生の間で結ばれている修業教育契約 (contrat d’apprentissage) が基盤となっている。その財源は修業教育税が大きな役割を占めているが、詳細はNPO学習開発研究所のサイトの訳文「マクロンによる修業教育 (L’apprentissage selon Macron)(ii)」で参照できる。

3 働きながら学び、学びながら働く
修業教育は16歳 (特例では15歳) から25歳以下の10年間の期間に3年間 (特例では4年間) の契約で職業資格を取得することを目指している。若者は労働者として契約するので一定の収入を得られ、その報酬額は表1に示すようである。

表1 フランスでの修業生の月額給与
初年の修業生の月額給与
18歳以前
最低賃金の25%
370ユーロ (約48,100円)
18-20歳
最低賃金の41%
607ユーロ (約78,910円)
21歳以上
最低賃金の53%
785ユーロ (約102,050円)
2年目の修業生の月額給与
18歳以前
最低賃金の37%
548ユーロ (約71,240円)
18-20歳
最低賃金の49%
725ユーロ (約94,250円)
21歳以上
最低賃金の61%
903ユーロ (約117,390円)
3年目の修業生の月額給与
18歳以前
最低賃金の53%
785ユーロ (約102,050円)
18-20歳
最低賃金の65%
962ユーロ (約125,060円)
21歳以上
最低賃金の78%
1,155ユーロ (約150,150円)

修業生の給与は最低賃金1,480.27ユーロ
(約192,400円、2017/1/1付) を基礎に計算

修業教育の特徴は、学習するときの人数の単位が少ないことである。企業では職場実習を指導する人が求められるが、基本的には1人の修業生に対して1名の指導者と1名の付添人を確保する必要がある。指導者は教えることよりも学習を支援し、また付添人は学習全体を案内する。このような指導者と付添人による実務の指導法の開発が進んでいる。事例としてフランス料理の職業人育成のための基礎技術プログラムが100映像教材として開発され、自律学習が前提である。これをNPO学習開発研究所のサイトで視聴できる。

以上のような規模の養成であるので、表2にも示されているように小規模企業あるいは地方市町村での人財養成に有効に機能している。

Ⅲ わが国の課題

わが国の高等教育の拡充にあたっては大学の定員増で対応してきた。この場合、キャンパス、教授陣、施設設備と学術研究による知識の創出と伝承を重視した政策であった。1979年に国連決議を批准するにあたって無償教育の漸進的な導入に拘束されない権利を留保するとして、無償化問題は取り上げられなかった(iii)。しかし2012年にこの留保条件を撤回する旨を国連事務総長に通告し、わが国も国連決議に拘束されることになったが、1979年から33年間の空白期間ある。

わが国の高等教育は政府と教育関係者主導型であるが、無償化を実現するためには学習者主導型にする必要がある。しかしながら、ユネスコの学習権宣言 (1985年) についても学習権を「教育を受ける権利」で対応できると解釈し、さらに働きながら学ぶために不可欠な有給教育休暇条約 (第140号、1974年) にもまだ批准していない。

冒頭でも述べたようにフランスでは工業労働者、農業労働者の子弟が高等教育に進学する率が低いことが問題視されていたが、2016年の統計では職業Bacの比率が高くなっている。この職業教育のルートから社会での指導的役割を果たしうる高等専門職業能力を働きながら習得できることを目指した専門職化契約がある (2004) 。わが国の職業教育はそのルートで修士号、博士号に匹敵する高等職業専門職能についての資格の整備が遅れており教育哲学からの考察が欠けている。

わが国の課題は、無償の高等教育を実現するために、若者の願望、意欲、訓練、協働への志向を満足させるICTを活用した若者中心の制度と内容と方法を整備することである。

参考資料

  1. Ministere de l’Education Nationale (2017) Reperes et References Statistiques 2017,
    http://cache.media.education.gouv.fr/file/2017/41/3/depp_rers_2017_801413.pdf#search='reperes+et+references+statistiques' (2017/10/15)
  2. Ministere de l’Education Nationale (2017) L’apprentissage selon Macron
    https://www.lapprenti.com/articles/article_auto.asp?news_id=333 (2017/10/15)

  • (i) 第13条2 (c) 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。(以下省略)
  • (ii) L’apprentissage selon Macron の訳文はNPO学習開発研究所のホームページ http://www.u-manabi.org/nc2/htdocs/ から参照できる。
  • (iii) 政府見解 (1979): 後期中等教育及び高等教育に係る機会均等の実現については、経済的な理由により修学困難な者に対する奨学金制度、授業料減免措置等の充実を通じて推進している。(中略)「特に,無償教育の漸進的な導入により」に拘束されない権利を留保する。