働くことを学ぶ - 修業学習と職業陶冶

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4.2 高等教育段階での職業陶冶の事例

更新日: 2022/09/21

 スイスの非大学型高等教育としてローザンヌ・ホテル業学校( EHL École Hôtelière de Lausanne)xviiiは、国際的な職業陶冶を目指すSandwich方式として注目されます。スイス公共放送RTSがYouTubeで提供しているのはつぎの5つの映像です。放映時間はいずれも47分台であり、最初の放映は2019年となっています。

(1) A l’école hôtelière (1/5) : Les débuts(デビュー)

(2) A l’école hôtelière (2/5) : Le stress du stage(研修のストレス)

(3) A l’école hôtelière (3/5) : Pression, travail, succès(圧迫、労働、成功)

(4) A l’école hôtelière (4/5) : Fin de semestre(学期の終わり)

(5) A l’école hôtelière (5/5) : Le stage pratique(実践研修)

(このシリーズも表題をYouTubeに入力して検索できる)

 この学校は従来のものとは大きく異なっています。従来の教育のように教室や実習室があって教員が授業計画を立てて、それに従って学生が受講するというスタイルではありません。実際の高級ホテルを模した建物で、設備も一流ホテル並みです。準備学年で最初にやることは、身体に見合う制服あるいは仕事着、厨房において安全のために履く仕事靴が用意されているのでそれらを調整することです。接客業でもあるので、スカートの長さ、ネクタイの締め方などが指示されます。一流ホテルを模したパーティー用の広い部屋、実物通りの受付やカフェ、食事は一流レストラン並みの接客の挙動が評価対象になっています。居室は2人一部屋で洗面所やトイレの清掃やベッドメーキングも評価されます。教員と明確に認識される職員の映像はあまりなく、日常の挙動が指導内容です。さらに新入生歓迎や免状授与の祝賀パーティーもすべて学生が企画し実施しています。

 収録されているのは全体で5名ですが、そのうちの3名(18歳、19歳、21歳)は準備課程の受講生であり、残りの2名(21歳、27歳)は修了を間近に控えて面接試験やさまざまな実技の評価を受けています。取得する資格はBachelorとMasterです。RTSの放送局はここでも5名の学生を特定して、その日々の生活ぶりを収録しています。

 この学校に入学時に強調されているモットーは

  • Excellence(越性)
  • Savoir-faire(手腕、為すことを学ぶ)
  • Savoir-être(人として生きることを学ぶ)

の3つです。学生は2,800名でその大部分はスイス人ですが、国際的学校を目指していて110か国からの留学生を受け入れています。第3番目のモットーであるSavoir-êtreを英語ではSoft skillsと訳していることがありますが、むしろLearning to be の意味です。

 また、入学の集会の中で責任者と思われる人が英語で挨拶していて、そのなかで « work, work and …… work » と述べています。それは強制されたものではなく、学校での学習態度を求めているのです。

 この学校の費用は表2のようになっています。数字はスイス・フラン(CHF)であり、授業料だけについてみると国際学生第1学年から第3学年までの3年間で90,570CHF(約12,804,786JPY, 1CHF= 141.34JPYで換算)ですが、スイス国内の学生の授業料は3,000CHF(約424,027 JPY)です。授業料のみについてみると国際学生は国内学生の30倍と高額になっています。それ以外の設備・実習費等、飲食費前払い、住居費、傷害保険は国内外の学生について同額であり、保証金を除くと4年間で国際学生は204,235CHF(約28,867,076.9JPY)であり、国内学生は116,665CHF(16,489,717.9JPY)で国際学生は国内学生にたいして1.75倍です。国内学生の費用負担の割合についてみますと、授業料は全体の約5分の1です。キャンパスに宿泊せずに外部から通っている学生も写されていますので、その場合には住居費を負担していないでしょう。受講生にはいろいろな奨学金を用意されていますが、その受給資格は当該業種で将来リーダーになる人ですので、授与者も受給者もモチベーションは高いとみてよいでしょう。ブタペストから参加している女性は同業組合から推薦されており将来の活躍が嘱望されている修業生です。マーケッティングなども受講していて、ホテル経営を目指しています。文末の付図にも示されているようにカリキュラムには企業での研修も含まれているので、企業からの奨学金も用意されているとみてよいでしょう。以上のことからEHLでのスイスの若者にかかる教育負担は授業料よりも設備実習費、飲食費、住居費などが大きいです。 

表2 EHLの国際ホスピタリティ管理科学Bachelorの費用

 このことは高級ホテルの業務での教育内容、実習機関、教育施設の設置場所とも密接に関連しているのでしょう。

 レストランでの接客にはワインやチーズの相談にも対応しなければならないし、経営、マネージメント、経理、マーケティングなどの科目もあります。たとえば最終学年の27歳の男子学生は実習先としてタイの観光保養地プーケットのホテルを選んでいますし、もう一人の女性学生はパリ市街地のホテルを選んでいます。

 情報化とグローバル化の進展の最中にコロナ禍を経験して、国際的な非大学型高等教育を検討することは今後のわが国の高等教育を考えるうえで重要です。このBachelorコースはヨーロッパで広く採用されている6ヶ月をキャンパスで学び、6ヶ月を職場で働くというSandwitch方式であり、職場で働く期間は相当する給与が支給されます。EHLはフランス語と英語が共通語として使われています。

 ヨーロッパでは欧州高等教育圏EHEAと欧州単位互換性ECTSの制度によって圏内のどの大学でも受講できますが、EHLの入学式の挨拶のなかで「皆さんがわれわれを選んだのではなく、われわれが皆さんを選んだのです」と述べているように、このEHLはホテル業界のリーダーを育成することを目的とした学校であるので、業界の意向が反映しており、財政支援による奨学制度が整っていると考えられます。


xviii EHL: Ecole Hotêlière de Lausanne
https://www.ehl.edu/(参照日 2022.02.04)