働くことを学ぶ - 修業学習と職業陶冶

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はじめに

更新日: 2022/10/18

 21世紀に入って、それぞれの国は歴史的、社会的、文化的な背景のもとに高等教育の改革が進められています。世界的規模で移民や難民として移動するようになり、生活の必要性から職業に従事するための職業能力の開発が課題になっています。とくにわが国では江戸期末まで鎖国をしていて海外との人的な移動がほとんどありませんでしたが、いよいよ開国となって欧米列強の植民地政策も目にしていましたから、「富国強兵」が喫緊の課題でした。そこで政府は先進国の教育制度を視察した経験に基づいて、それまでの藩校と手習い塾の制度から一気に学校と大学の教育制度を整備しました。国民の一部には強い反対もありましたが、文明開化ということで学校制度は急速に進展しました。
 列強諸国による植民地化を防ぐことには成功しましたが、勢い余って近隣諸国に植民地化を迫るようになり、第二次世界大戦の軍国主義へと突き進みました。終戦とともにその教育制度は改革され、民主主義の普及におおきな役割を果たす学校制度になりました。しかしその時期、終戦後の国土復興に有能な人材が必要となり、中学校から高等学校へ、そしてさらに大学へと疑うこともなく高い学力を求めて進学してきました。20世紀末から21世紀初頭にかけて各国で高等教育の整備が進められるにしたがって、わが国の高等教育制度が国民に多大の経済的負担を強いるものであり、その制度が他国のモデルになるものではないことが明らかになってきています。
 本プロジェクトの提唱者である西之園晴夫(経歴研究歴)は1966-67年度にフランス政府技術留学生として技術教育高等師範学校(当時)に滞在した経験があり、その後、ユネスコのアジア太平洋事務所でのミッションとしての東南アジアでの移動チームの一員に参加し、2009年までアメリカやヨーロッパの集会で研究発表もしていました。
 さらに2002年から2021年7月までユネスコ職員として働いておられた米村明美さん(現関西外国語大学教授、パリ本部では開発銀行部と高等教育部、ニューデリー地域事務所で教育長、また、アディスアベバのアフリカ能力開発研究所とダカール地域事務所での教育専門家)もこのプロジェクトに助言して頂けることになりました。Z世代の若い人々が世界的な視野をもちながら、わが国の戦後の産業振興の「大量生産、大量消費」モデルから「逸品少量生産、耐久蓄財」モデルに転換し、海外販路を確保する職業教育モデルを構想し、実践し、制度化することを期待します。先輩や師匠の技をみて学ぶ、事物や現象を直接に手に触れ、観て学ぶという直観教育の考え方は、現状の学校・大学教育では限界があります。
 次ページからの表は、それぞれの地域の特徴を踏まえてコースを設計するときに役立つ設計部品の事例と考えて下さい。地域や職業の実態に合わせて修正してください。ヨーロッパで推進されているBachelorとMasterの国際資格を授与するBologna Processは今後の研究課題ですが、雇用可能性(employability)と可読性(readability)を重視するBologna Process に合わせるというよりも、自国の実態に合わせた修業制度がBologna Processの基準にどのように対応するかを解釈するという構造ですので、まずわが国での陶冶(toüya)制度を整備していくことが課題です。
 なお、クラスの本格的な開始は2025年以降になると思いますが、それまでにコース開発のために各方面からの参加と協力を期待します。