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6. インターネットは新しい職業専門陶冶を開くか

更新日: 2023/09/15

6. インターネットは新しい職業専門陶冶を開くか

 

6.1. なぜウクレレ・プロジェクトか

 すでに紹介してきたように欧米社会、とくにヨーロッパ社会はエリート層と労働者層とが明確に分かれている社会です。しかしスマートフォンの世界的な普及によって、音楽やスポーツは国境や社会階層の壁を乗り越えて、世代の価値観を分かち合い共感しながら楽しめる世界的文化が形成されつつあります。わが国でクラッシック音楽といえばヨーロッパの宮廷音楽として普及しているものが大部分であり、ピアノを筆頭に、バイオリン、チェロ、ハープなど富裕層が所有していた楽器が大部分です。ところがウクレレはハワイなど太平洋諸島で普及した庶民の楽器であり、もともとはポルトガルの船員が携帯していたものが原型であるといわれていますが、その歴史についてはこれ以上述べません。現在のウクレレが世界的に普及したのには日系五世のJake Shimabukuroの貢献が大きいです。彼が演奏していた曲をたまたま友達の勧めでYouTubeにアップして一躍知られるところとなり、その後、本格的に作曲家、演奏家として世界的に活動しています。アルバム「Peace, Love and Ukulele」にあるようにウクレレを介してのメッセージを発信しています。

 第3章でも紹介したように全英ウクレレ・オーケストラのロンドンの王立アルバート・ホールでの演奏は画期的でした。イギリス社会に根強くのこる階層文化の壁を乗り越えようとしている努力と、さまざまな分野でウクレレを活用しようとする活動があります。それは単に楽器としてのウクレレの演奏ではなく、その背後にある文化と階層社会の考え方が重要です。

 

6.2. インターネットが開いた語学学習の革命

 教育方法がYouTubeやAI技術を活用することによって画期的に進歩したものに語学学習があります。最近では日本語のニュースが英語の同時通訳で流れたり、海外ニュースを原語で聴いたりすることもできるようになりましたが、学習という視点からは対面一斉授業ではなく個人の学習能力と進度に合わせた学習材と課題が提供されるプログラムがあります。私が利用しているのは、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語の5か国語の学習指導が実践されているGymglishのうちのフランス語で、本部がパリにあるfrantastiqueというシステムと、スペインのマドリッドで開発しているPierreとNoemiのfrancaisavecpierreのVideo学習材です。無料の短編Videoもたくさんありますが、系統的なものはパッケージになっていて有料です。

 私のfrantastiqueでの学習状況と学習成果をつぎに紹介しておきます。

  • 学 習 開 始 日:2020年5月12日
  • 最 新 学 習 日:2023年7月1日
  • 既学習レッスン:663レッスン
  • 総 学 習 時 間:221時間20分(平均20分/レッスン)
  • 参 加 割 合:95%

学習成果はつぎのとおりです。

2023年3-5月の1か月間の実績
2023年 3月期 4月期 5月期 6月期
学習レッスン数 15 13 13 12
学習時間 5h 4h20m 4h20m 4h
習得単語数 138 119 108 115
習得文法規則数 10規則 11規則 8規則 8規則
最高正解率 100% 100% 100% 100%
平均正解率 78% 74% 91% 91%
2013年6月末の到達レベル
総合レベル 3.8 (初期:2.7)
語彙レベル 4.1 (初期:2.8)
文法レベル 4.2 (初期:3.7)
コミュニケーションレベル 3.2 (初期:1.7)

 フランス語から20年余り離れていたので84歳7か月からレベルA2で始まって、現在はB1~B2レベルですが、平均正解率にみられるように2022年暮れ頃から進歩しなくなっています。平均の正解率が80~85%以上でないとレベルの昇級はないようですので87歳で私の学習能力は限界に達したように思われたのですが、5,6月期には上昇していますが演習課題は復習問題が大部分でレベルは高くなっていません。このような情報が個人毎に毎日の正解率と月毎の学習成果に知らされます。語学の習得は運動能力や楽器演奏能力と同じように繰り返しによって向上しますし、怠ればすぐにレベルは低下します。したがって、語学力の習得は対面授業よりもインターネットを使った個別学習方式の方がはるかに優れています。

 

6.3. コミュニケーション能力の基盤となる共通話題-専門性

 外国の人とコミュニケーションをとろうとすると、話題が共有できないことに一番困惑します。わが国の学校教育では主として英語を教えているのですが、それがまったく機能しないことに歯がゆさを感じます。私は語学が苦手でして大学1学年のときに単位を落したのが英語と物理実験でした。大学生時代はスポーツ部で練習に熱中していたので物理実験の単位が取れなかったのは出席日数の不足が原因でした。英語は中学時代から苦手でしたが、大学でドイツ語には興味をもって熱心にやったのでドイツ映画を楽しめるまでになっていたのですが、2年間の教養課程を修了して専門課程に進んだら専門科目の勉強に忙しくなって卒業した時にはドイツ語はすっかり消滅していました。

 大学は工学部と教育学部を卒業して工業高校に勤務し、その後は教員養成を専門としていました。イギリスの文献は入手しやすかったので制度や教育内容を調べていましたが、フランスの1947年のランジュバン・ワロン教育改革案(Le plan Langevin-Wallon)が極めて民主的な考え方で労働者教育を重視していることを知りました。とくに第二次世界大戦後の復興の過程での職業教育に言及していましたので、何とかフランスに行ってみたいと考えてフランス語の学習を始めましたが、それは29歳のときです。語学学習では英語で失敗し、ドイツ語は興味をもったのですが継続できずじまいでしたので、フランス語に失敗することはできませんから、かなり集中して勉強しました。語学は不得意であることを十分に自覚していたので、他の人よりも時間を掛けようと覚悟して始めました。目標はフランス政府国費技術留学生の試験に合格することです。3年計画でしたが、2年目に試しに受験してみようと考えて応募したところ合格しました。語学はそれほど進歩していなかったのですが、私の渡仏目的が明確であったことと、それにかかわる京都大学付設工業教員養成所で実務に携わっていたことが幸いしたようです。渡仏して3か月間はフランス語の特訓があったので、何とか独りでいろいろな学校や官庁に面談に訪れることができました。

 フランスの職業教育では上級幹部を養成する高等師範学校に優秀な人材を集めており優遇されていましたが、一般教員の養成はあまり程度の高いものではなく、日本の工業高校の教育の方が優れていました。ここでフランス社会の二重構造、すなわち先導する階層と追従する階層とのギャップを体験しました。ランジュバン・ワロン計画もあまりにも理想的観念的で実態とは大きく異なるということです。しかしいろいろなところを訪問したことから、ヨーロッパ社会のエリート層の行動が博識で深い思索に根差していることを実感し、私の留学目的である制度や思想の研究には大変有意義な経験でした。その後、数多くの回数ヨーロッパを訪問し、UNESCO本部やOECD本部での会合にも参加しましたが、やはりエリート層との会話は楽しいものでした。一方、教育現場での先生方との会話も実態を知るうえで貴重でしたが、やはり指導者層にリードされているという感じを受けました。

 

6.4. コミュニケーション能力の基盤となる共通話題-趣味

 語学力を現地で習得しようとすると継続性をもたせるために共通の話題が必要です。この場合、国境を容易に越えるのがスポーツと音楽です。これまでにも紹介してきましたように、なかでもウクレレは庶民楽器として広く受け入れられていて、社会階層の壁を低くするための器材、あるいは新しい分野を開拓するための用具となることが期待されます。このほかにもいろいろな趣味をもっていることはコミュニケーションを容易にしてくれます。

 スポーツとしては、それぞれの国でポピュラーな種目は異なるでしょう。アメリカであれば野球、ヨーロッパであればフットボール(サッカー)、カナダであればアイスホッケーなどが挙げられます。音楽も多彩ですし、園芸の趣味も国際性があります。

 外国語によるコミュニケーションは、文法と単語を習得していればできるのではなく、専門のことや共通の趣味のことが話題になりますから、このような話題があれば会話は続きます。私がカナダに滞在していたとき、食事での話題はいつもアイスホッケーでしたのですが、話題に入っていけなかったことに悔しい思いをしました。スポーツ選手や音楽関係の人は気軽に海外の世界に飛び込んでいけるのが羨ましいです。

 

6.5. 職業専門陶冶の話題を国際語で

 個人経営の事業や中小企業の経営では、今後ますます国際的な仕入れや販路の拡大が重要になってくるでしょう。英語であれば高校卒業程度の語学力で十分で、専門用語が使えればコミュニケーションはとれますから世界に飛び出すことができます。特に英語が母国語でない人々と英語でコミュニケーションすることは、語学力に自信のない人にとって気が楽になります。国際的な集会がイギリスやアメリカで開催されるとき、イギリス語やアメリカ語は国際語(英語)の標準ではないのでジョークなどを使わないようにと注意がでる場合があります。

 職業専門陶冶の場合も国内の職業の状況をよく理解し基礎的な専門用語が使えれば、自分の知らない用語は相手に聞けばいいのです。そのように相手の使っている単語を借用しながら会話を続けることができます。それと適切な箇所で適切な合槌が打てるようになると、相手も理解されていると安心しますから、ゆとりができます。

 私は語学が苦手です。しかし自分の言いたいことは間違いを気にすることなく何とか喋ろうとしますから、相手は私の語学力を理解してそれに合わせて話を展開してくれます。それに助けられて何とか国際的な場面で自分の役割を果たしてきましたし、論文を書いたり発表したりしてきました。その実際については文献検索システムResearchGateでHaruo Nishinosonoで検索してみてください。英語を母国語としていない人々にとっては同じような思いをしいるので、UNESCOの会合などで非英語国の人と「英語は疲れますね」といいながら会合に参加していました。